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自由と人間の境界:ただ只管に、平らに続く夜と影。 [本編]

此方小説は、浅海由梨奈さんのみ、お持ち帰り可能です。


自由と人間の境界
~白い部屋~

登場キャラ:バルベルさん 三つ子

それっぽい度:★★★★☆
精神有害度:★★★☆☆
(色々と設定が違います)
(前回の話から、数日後の話です)
(明らかに、仲良くした後ですサーセン)

【設定の差異】
☆三つ子は人間
☆異端審問官に所属





始まりも終わりも、無いとするなら、それは虚無だろうか?

永遠だろうか?



鋭く研ぎ澄まされた刃の如く、心まで凍てつかせる大気。雪雲を攫う、まだ年若い風が、月の無い空を音も無く渦巻く。
街には沢山の人間が住んでいる。その全てが善良とは言えない、だが、今この時間は何も知らない、人間が眠りに付く時間だ。
誰も居ない、明かりも無い。これだけ見るなら、まるでこの街は死んでしまっている様にさえ見える。
だが、この漆黒の闇の中に生きる、人間から大きく掛け離れた魔の物は、人々の気配も絶えた世界で、ひっそりと息づいているのだ。

それは逃れようの無い事。
彼らは人間が人間である、人間の世を望んだ時より、人の半分なのだから。

ただ只管に、平らに続く夜と影。




自由と人間の境界
~白い部屋~




「ねぇねぇ、お姉さん」

「ん……なーに?」

まだ行為の余韻に浸っていた女が、寝返りを一つすると、声の主の方を見た。
頭の芯を冷えた手で撫でるような、女性とも男性ともつかないような声で、隣に横たわっていた女を呼ぶのは、白い子供。
隣の女に寄り添いながら、赤茶色をした目が、自分の手元に一瞬移ると、その手から何か光る物を取り出して見せた。
それを不思議そうに見る……。先が逆三角に尖った尾を持つ女が、魔の物の証である、黒い銀眼でそれを見ている。
しなやかに絡む腕一つ、褐色の肌は女の紫の肌に絡みつくと、長い黒髪を揺らせながら、その子供は青い目を瞬かせた。
人間の理を感じさせない紫色の肌は、人間では到底及ばない程滑らかに手に吸い付き、彼女を抱いた男を魅力するだろう。
一人外れていた白い子供は、水差しから一杯水を飲むと、枕元に置いてあった眼鏡を掛け直し、その妙な輪の中に戻る。
黒い角が、明かりの無い中で艶めしく光沢を放つ。悪戯に擽るように角を触られ、彼女は角を触る細い手を、視点を移さずに握った。

「コレあげるー」

まるで手品のように、輝く何かを取り出した白い子供は、惜しげもなく取り出したそれを、淫魔の女に渡す。
その琥珀色の結晶細工を手に取りながら、淫魔は。バルベルはその物の正体を、素直に疑問符に出した。
結晶細工の形状は奇妙だった。装飾品の類にしては、金具が見当たらなく。調度品にしては、小さすぎる。形は鍵の様だが、何かの鍵に使うにしては結晶というのは脆すぎる。
それでも、自分に好意のある人間が自分に贈り物をした事が、バルベルには嬉しかった。

「プレゼントだよー」

「わー…アリガト、すっごく嬉しいv 暗いのにキラキラしてて…これ綺麗ね。
でも、これって……鍵みたいだけど、何なの?」

「自分達の自宅の鍵」

質問を返したのは、手を握られている子供。握られた手を握り返すと、子供は嬉しそうに、例えようの無い声で笑う。
バルベルは、この例えようの無い声の正体を知っている。それを知っているのは、彼らの親か、バルベルのように肌を重ねた者しか知らない事だと思うと、バルベルはそれを知った事が、なんだか特別な事のような気がする。
この子供は不思議な事に、声の通りに男でも女でも無い。凶暴な雄の部分の奥には、受け入れる為の同じ女の部分があった。ただあるだけではない、そこを愛撫してやれば、男に抱かれる女と同じ様に声を漏らす。
その声もまた、女の声では無かったが、バルベルの聴覚を揺らす音は、とても心地よかった。
よく笑う子供は、行為の最中でもよく笑った。最初行為の最中に、なんの前触れも無く笑い出した時は、手加減無しに精を搾りすぎて狂ってしまったかと、バルベルは一瞬焦った。
だが、それは別に心配すべきことではなく、ただの彼らの癖のようなものらしい。

「自分達のお家の鍵。
ほら、ここいらの少し外れに、やたら広い家っぽいの、あるじゃん。あれの」

「熱烈なお誘いね。
あたしを家に連れ込んで、連れ込みオオカミさんは何がしたいのかな?v
正直に言ったら、あたしも正直になってあげよっかな~♪」

バルベルは最初握っていた手を放すと、次は黒い髪をした子供を抱き寄せた。
抱き寄せられた子供の体は、脂肪と筋肉が微妙な配分でついており、今まで無かったような抱き心地は、最近の彼女の中の流行になりそうである。
手放された子供は、また表情を変えないまま、バルベルの背に軽く圧し掛かると、羽がしまっているであろう場所に、やわやわと指先を這わせた。長い爪と指の腹が、爪を避けて蠢く感覚は妙に卑猥だ。
羽を気に入った彼のこれは、この彼なりの流行なのだろう。

「どうせだから、自分のベッドでセックスしたくなったの」

予想通り。次に言葉を返したのは黒い子供。先程から何をする訳でも無く、バルベルの髪を意味も無く触ったり、自由に動く尻尾を目で追ったりしていたが、話に加わる気になったようだ。
この子供達は、皆寸分違わぬ複製体のように似ていて、互いの言いたい事が互いに解っているのか、発する言葉を共有しあって喋る。
そして、一見すれば性からは程遠いような、浮世離れした容姿をしているが、彼らは淫魔であるバルベルが驚く程に多淫だ。
白い髪も黒い髪も、赤い目も青い目も、バルベルと共に奔放に交わり、淫魔の性(サガ)から考えるならとても退屈しなくて丁度良い。
相手に奉仕するような抱き方をする彼らは、人を抱き慣れているというより、如何にして相手に快楽を与えるかを特化したような、そんな含みを感じる。
頭の中を白く塗り替えるような、閃光のような物ではなく。相手に今此処にある快楽を、ありありと見せ付けるような抱き方は、バルベルが今まで知った中でも、そうは居ない毛色の性感を齎した。
肌を重ねる度に、愛しい恋人のように抱く彼らを、バルベルは全ての精を吸い尽くしてしまいたいような、そんな感情に駆られる事もあったが、それをしてしまったら全てが終わってしまう。そう考える度、彼女にしては珍しい我慢をする。

「家だったら、アレな道具とか色々あるしさ。
おねーさんとセックスするの楽しいから、いっぱい楽しみたいの」

「はーい、質・問・です……。
先生、『アレ』ってなんですかー?w」

「おねえさんのナカに、入れたり出したりして遊ぶ玩具だよ、ワトソン君」

一巡して答えるのは、最初に歌を歌ってバルベルを呼んだ白い子供。真顔で冗談を言うのは、最初に会った時から。
羞恥心があるかどうかすら疑わしいような、そんな即答だが、一糸纏わず白い体を曝しながら言っている様は、背徳的な空気を漂わせる要因になっている。
あの歌の事は、何度聞いても子供達は答えようとしない。何度聞いても、曖昧な答えと、奇妙な微笑が帰ってくるだけ。
ただ、あの歌を聴くと、普段はただの歌に聞こえるが、時々、奇妙に呼び寄せられるような、そんな気分がする時がある。

「いいこいいこ、よく言えましたv」

「くすぐったい」
「いいなぁ」
「いいなー」

そう言って、白い髪を何度も撫でてやると、やっぱりこの子供は笑い出す。白い髪は、思いの他手触りが軽く、芯が無い様に感じる。後の二人は、それを羨ましげに声に出して、感情を訴えた。
手の中の鍵は、琥珀色に輝いて、細かく施された細工が鈍く金に輝く。これは琥珀ではない、それが何なのかを聞いてみようとも思ったが、それよりも気になる事が出来て、バルベルはそれを考える事を中断する。

さっきから、子供が三人とも隙間一つ作るまいとしているのか、自分の体に肌が当たっていない感触が殆どしない。
何時もこうだ、この子供達は行為が終わった後、必ずこうして擦り寄ってくる。
甘えているのだろうか? こんな子供でも、人恋しいのだろうか?

「あったかいのが好きなの?」

その質問はあまりにも唐突で、あまりにも脈絡が無かったが、まるで心を読んだ様に、擦り寄る子供達は声を揃えて言う。

「「「違うよ、お姉さんの体、何処もかしこも冷たいから好きなんだ」」」

『信じて、みる?』

不思議な事に、その言葉の後に続いた言葉は、誰が言ったものだったのか、バルベルは解らなかった。
それでも、バルベルは撫でる手を止めて、その手の指をぴっ、と、一本立てて悪戯っぽく言う。


「んー…、そうね。
嬉しいから……信じてみるわVv

きっと、そっちの方がイイ事ありそうだもの。





それは、ある何の変哲も無い、月の無い夜だった。
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