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デジレさんSSS:人ではない、人の形をした肉だ。 [番外編]

此方SSSは、浅海由梨奈さんのみお持ち帰り可能です。


番外編
よぉこそ

登場キャラ:デジレさん 弟 真実の子 名無し(少し

デジレさんが異端審問官ちに御用事のようです。

不快度:★★★★☆
精神有害度:★★☆☆☆
(由梨奈さんちの淫魔パラレルです)
(色々と設定が違います)
(超短い、セリフが二つしかない)
(デジレさんがすごい不愉快になってます)
(鬼畜攻め=無敵って考えの人は逃げてくれ!)

【設定の差異】
☆御一家全員異端審問官
☆&人間



門番の居ない大仰な門を潜り、あまりに広すぎる半分朽ち果てた庭園を歩き、水路が途切れた場所から更に進み、時間が切り取られたような建造物の門前に立ち、扉をノックする。
その行動をしているのは、金の髪、それに良く映える茶の瞳をしたそれは、男性としての美の全てを兼ね備えた外見ながら、何処か浮世離れしたような、近寄り難さを持つ男。
見るからに古い作りの大きな扉を二度叩けば、頭の芯まで良く通るような声が、来客を出迎えるための業務的な言葉を繋げる。

デジレは、これら全てが酷く不愉快だった。







「ようこそいらっしゃいました、デジレ様。
本日の査定は二時よりとなっていますので、失礼ながら、もう少々応接室にてお待ち下さい」

目の前の執事は見るからに礼を込めたように、深々と首を下ろし頭を下げ、水に濡れたような重さと湿り気を感じさせる、群青色の髪が垂れる。
しかし、この執事がデジレに対して礼を持っているかと言われれば、それは別だ。デジレはこの執事が、この深々と下げた首の下で、自分を嘲笑している事を知っている。
この垂れる髪の下、舌を出して自分をせせら笑っているこの首、何度切り落としてやろうと思っただろうか。浮ついた世辞を吐く赤い裂け目に、鉛弾をくれてやろうと思ったこともあった。
だが、そんなことをすれば自分が無事でないことが解らない程、デジレは幸せな頭をしては居ない。異端審問官を殺す事は、国や法王に刃向かう事と同じ、良くて死刑、悪くて収容所送りは免れない。

傲慢なまでに堂々と礼をした後、執事は首を上げ、『此方へ』と、また良く通る聞き様によっては爽やかさまで感じさせるような声で言うと、デジレを奥にある新館へと案内した。
木製の床が小さく音を立てて来訪者を迎える。新館は今居る旧館の奥にあるため、遠くは無いが、奥へ奥へと歩かなければならない。こんな所、一刻も早く出て行きたいというのに。出来る事だったら、この屋敷へは足を運ぶ事すらしたくない。
国に仕え、正式に淫魔を狩る事を許可された国家ハンターは、多大な援助金や権利、地位等を手に入れるが、それと引き換えに国に忠誠を従わなければならない。
その目に見えない忠誠の証として、国家ハンターには月に二か三度、それまで狩った淫魔の数、研究結果の報告や、今後の援助金の額や薬物兵器の使用許可等を含めた、査定がある。
査定というのは、一種の国に対するパフォーマンスであるため、いかにデジレとあっても、これを無視する事は悪ければ天に弓射る行為として、処罰されることになる可能性があるのだ。

デジレは心底この執事が嫌いだ、立ち振る舞いといい、声といい、髪の毛の一筋に至るまで全てが気に食わない、相手が異端審問官という立場でなければ、とうの昔に殺している程に。
そして、憎憎しい群青色が接待を担当しているらしいがために、一ヶ月に数度は必ず会わなければならない事、それが不快さを増徴させていた。

細身の革靴が自身が軋む音を廊下に立て、それにデジレが続く。互いに無言のまま、執事は業務的にデジレを案内し、デジレはそれに続く。会話は無い、誰が大嫌いなこれと話すか。
目の前のそれが長い髪を揺らせる度、その細い首を掴み、一気に力を込めて首の骨を折り、絞め殺してやろうかとも考える。
絞殺死体は誰であっても目を背ける程に気色が悪く、例え生前のそれが美しかろうと、容赦が無く悲惨だ。あの涼しげな顔が、酸素を失ってどれだけ無様で醜く変わるか、想像するだけでも愉快。実際、想像することしか出来ない事を考えると、不愉快だが。

不意に革靴の音が止み、立ち止まると、廊下を左右白黒に体色の分かれた、引き摺る程の異常に長い髪をした白痴が歩いていった。
執事はそれを廊下の端に寄って、白痴に道を譲る。白痴は顔面に幾重にも巻かれた包帯の端を引き摺りながら、道を開けないデジレの前に立つ。
包帯の下、片方だけ覗いた青い目の、あまりの虚ろさに吐き気がする。これは目ではない、目の形をした肉だ。それどころか、この異常な白痴は人ではない、人の形をした肉だ。
全身から力も意志も抜け切ったその姿からは、全く知性を感じられず、ずるずると引き摺る髪がその痴愚さを物語り、デジレの生理的嫌悪感を煽る。
一度これの存在を暴露して、異端審問官一族を失墜させようとしたこともあった。が、結果は芳しくなく、国の保守主義の豚共は、自分の私服が肥やせれば、一族に白痴がいようと外に出さなければ構わないようだ。
流石に人外が、もしくはそう言って万民を信じさせるような、醜く下等な奇形児でも居れば別だろうが。そう考えると、この白雉が人の形をしていることが憎らしい。

執事はデジレを手で遮ると、強引に自分と同じ様に壁側へ寄せた。道を開けさせる。この行動から解る通り、この執事はデジレをこの白雉以下だと考えている。
一瞬、烈火の如く殺意がデジレを飲み込みかけたが、それを理性で押し止めると、デジレや執事の存在など何処吹く風、最初から見えていなかったように、古びた廊下を汚らしい髪がずるずると進んで行く。

すると、その後を追うように、耳まで口が裂けるような笑い顔をした、紫色の癖毛がうっとおしい子供が、白雉の髪を抱えるようにして束ね持つと、此方を見て『ゲヒヒ』と、まるで赤錆の浮いた鉄を擦り合わせるような、耳障りな声で笑う。
子供は此方に今やっと気がついたというような、人を小馬鹿にする様なわざとらしい反応をすると、デジレに向ってケタケタと嘲るような表情をした後一つ会釈をして、髪に引き摺られるように白痴に付いて行った。
あの子供は何度か見た事がある、子供というものは喧しく、好きではないが、あの子供はまるで一昔前の見世物小屋にいたとされるせむし男のように、他者の顔色を伺い、人に媚び諂う。そのくせ、心の底では全てを見下している。
最早殺意さえ湧かない、存在自体が不愉快なそれに眉を潜めると、執事は白雉がある程度放れたのを確認して、また応接室へと歩き出す。

そして新館へ辿り着くと、辺りの有り様はシャンデリアの光に照らされて、一気に様変わりをする。豪奢だが落ち着いた造りの新館のエントランスからは、訳四本の廊下へと続く道が繋がっており、向ってエントランス最奥には、何故か大きな鏡が置いてあった。

だが、デジレはこの新館に来ると、余計に不愉快になる。奥へ来てしまった事が不愉快なのではなく、この場所に来ると、何者かから向けられる視線が強くなるのだ。
視線は旧館にいる時にも感じるのだが、新館にいる時は不快さを感じる程に強くなる。まるで、自分の全てを箱庭の上から観察されるような、無数の目に監視されるかのような感覚は、激しい苛立ちと嫌悪を呼ぶ。
無数に四方八方から向けられる視線は、此方に対して何か感情を持つものもあれば、先程の白痴のように、なんの意味も持たず、ただ開いて見ているだけのものもあった。
長く広い廊下、幾つも並ぶ扉の前、扉と廊下を繋ぐ為の鍵穴を見る度に、その一つ一つに眼球があり、角膜、瞳孔、水晶体を持ってその全てから自分を見ているようで、その一つ一つに針を刺して潰して血を流させたくなるのは、煮えくり返りそうな腸が原因か。
黒い穴になった部分に、あの白痴の虚ろな目が重なって、デジレはまた吐き気を催しそうになったが、執事が此方を振り返った事に気が付き、向き直る。

「どうぞ此方で、もう少々お待ち下さい」


両眉を下げ、口の端だけ上げる行為が、ここまで自分に怒りの念を抱かせるのだと知ったのは、査定の際の接待にこの執事が付いてからだった。
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