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深海魚は深い場所から出されると死んじゃうんだ。 [番外編]

此方は浅海由梨奈さんのみ、お持ち帰り・転載可能です。


奇怪深海魚達のキャロル

登場キャラ:虚の者、黄泉坂の子、百眼百手の者、姉兄2、妹弟2、破裂の頤、『   』、???、生生流転の子

注意:この物語は本編開始時より二年前の物語であって、ベルねーさんやメルパパ、おじさんなんかはまだ出会ってもいなく、話にも登場しません。
(2007年 12月24日 21時~12月25日 1時までの行動記録的な短編集です)








クリスマス・イブと言えば。

好きな人と仲良しこよしして
皆でツリーを飾って
楽しくパーティーをして
神様にお祈りをして
プレゼントを待って幸せな夢を見る。




奇怪深海魚達のキャロル




此の世に存在する誰かがこんなことを言った、神様というのは意思を持つ何かではなく、ただ適当な条件を満たした物にのみ「祝福」という形の現象を与えるだけの、機械仕掛けの「物」なのではないか、そう。誰が言っていたのか。無駄だ、そいつは獄中でくすねたタオルを使って首を括って死んだ。
どこかの国の昔の学生服を纏ったそれは、半端な水分の所為で泥にも土にもなりきれない柔らかい地面に軍靴をめり込ませながら、丁度そこに上半分を吹き飛ばされた形をした縞模様のパイロンと同じ色の髪を掻き揚げる。神様の祝福、「神様の仕事」をした帰りだ。
まったく、こんな辺鄙な所に匿っていただなんて、いや、辺鄙な場所だからこそ隠すに値するのか。白い息を吐くそれは、今夜は人殺しなんて物騒で、意味も何も無い真似はしていない。ただ少し、制裁を加えてきた。昔からよるある手、相手が直接的な手段で神に仕える事を拒むなら、神に縋りたくなるさせただけ。
じゃく、霜柱が踏み潰される音が一歩ごとに響き、不愉快な感触に眉を潜める。体にまとわりつく長い髪の感触、女の血と荒い息遣い、なんと汚らわしく鬱陶しいことか。懐に仕舞ってある毒針は使わない。ただ一言、神の祝福だけを口にした。
きっとあの女は賛美歌を聴く度に悲鳴を上げる、将来今日という日がやってくる度、ケーキの甘い匂いとカレンダーに付いた柊を見る度、未来の夫と情を交わす度に身を振るわせ続ける。手荷物が零れた、新年用として手渡された新しいカレンダー。もう10以上あるからいらないというのに。泥を払えば手が汚れる、無視した。明日にはぐずぐずに溶けてただの濡れた紙になるだけだ。
靴の汚れを気にせず済む舗装された地面にやっと降り立つ、白衣、これも仕事帰りか。気安い態度の見知った顔が手を振っているのを見て、皮をぎしぎし鳴らしながら近付き足払いを掛ける。まんまと除けられたが、愚かにも仕事を押し付けてきた報いは必ず受けさせる。
子供と接する時は目線をあわせましょう。かち合う目線、悪びれず笑ういやらしい灰色の髪、一束引き抜く気で力の限り引いてやった。表通りの方からは色めき立つ声と、賛美歌を崩した歌声、イルミネーションの灯かりが覗く。
背を向けて歩く二人は、今日という日が来ても何も感じず、何も思い出さないだろう。


水の泡が浮ぶ、消える、弾ける、丸く形成されては消える物の中に、薄いが確かな金を放つ物がまるで夢でも見ているかのような、無機物と生物の中間を漂う。それを覗くのは目の無い目、まだらの肌で白い紙を引っ掻き、誰にも読めない模様がガチガチと音を立てた。
くぐもった声が上がって、知らせることを命令していた目が其方を向くと、知らせを寄越したそれが手招きをする。両隣に存在する円柱の中を眠るそれが起きた、円柱の中のものが見た物、膜に包まれた様な視界と薄暗い部屋、見た事も無い機械とも思えない物体。自分の隣に浮く誰か。それを淡々と観察する観察者。
意味不明な呟きを漏らす長躯が、手元の機械の目盛を弄るのと同時に、ビーカーの中の泡が踊る。慈悲深い誰かが居たのなら、そのまま眠っていれば良かったのに、そう、悲しげに目を伏せたのだろうが、そんな人間この場にはいない。ボールペンが強くバインダーを叩く、模様が広がり、呻き声を上げるそれは喜びも悲しみも無い目で観察を続ける。
白い光がぽわ、と暖かで場違いな光が増すごとに、目の無い目が見る金色が白い蜜を垂らされたように輝きを増す。少々質力が高すぎたのかカチカチとビーカーが耳障りな音を立てる。手を上げて命令を下すと、ぶしゅっ、羊水の中に白い液体が混じり中濃の液体に満たされ、機械は音を遮る。
真っ白をじっと覗き込んでいると、久しく見ていなかった地上の事を思い出して、日付が引っかかれた。彼らはもう何日も、何ヶ月も外に出ていない。太陽を見たのは何時頃前だっただろうか。体を生かす為だけに開けた穴、腕に突き刺さったチューブのドレスが痛む程。機械を弄る腕は真っ青だ。
何かを思い出そうとして止める。呻き声、呻き声を上げた主は羊水の排出を始めて、泡を出していた物が落ちた。思い出す事も忘れた。ぼたり、溶け掛けて蕩けた白い玉が重力に従って落ち、焼け付く音を立てて床に小さな黒を作って消えた。今回は長持ちした方。
今度の物は子供サイズでいいな、柄にも無く冗談めかしたことを考えて、誰にも言わずに泡の中に掻き消す。きっとこの研究は成功するだろう、成功しても何の役にも経たない上、誰も喜びはしないだろうが。漂いうつろう白い光。まるで太陽。


雪の一つでも降らないものか。空を見上げても降って来るのは自分の吐いた白い息程度、薄暗く湿った場所に白い色等は無縁で、祭りの終わりに余韻を感じながら足を進める。先程までの恋人、もう固まってしまったそれは、自分を熱く高めてはくれない。
近くにあった四つ重ねた塊に腰を降ろすと、それはまだ座れる程度に柔らかく、徐々に冷えつつあった体をほんの僅かに温めてくれた。電話はもう入れた、もう直ぐ神経質なまでに掃除好きで、掃除嫌いな二人がやって来て、湿り気は冬の空気にゆっくりと溶ける。
肺一杯に自分が撒き散らした匂いを取り込んで、もう直ぐ元の色に戻る灰色だった石をガリガリ、引っ掻く様に革靴で撫でた。袋小路の壁に囲まれては、そう簡単にこれらが風に煽られていく事は無かった。
ガムテープで目張りされた窓、それが五つ、煉瓦を模したアパートに並んでいて、塊はこの場所を気に入っていたらしい。もう誰も立ち寄る事が無くなったそれは、何処かの偉い人間が金を使いすぎて取り壊されることも無ければ、新しく住もうという何者かもいない。徐々に尻が冷えて、それは立ち上がった。そろそろ潮時、臭い物が飛び出る。
まだ少し物足りない、誰か此処にやってこないだろうか。見上げた空にしか流れ変わる物は無い。出来るならあの二人がやって来る前に、サッサとすれば一緒に掃除を押し付けることが出来る。耳障りな音、縊る時に鳴ったならそれはそれで風情というものだというのに、自分はこれだけには興味が無いので、こういった掃除もしたくない。
糸が引き伸ばされる音がして振り向くと、肌色が二つ立っていた。いや、もう片方は立っていない。ほんの僅かにねばつく体液から辺りに湧く湯気が僅かに周りを白くする。ひゅう、と煽られて白が飛ぶ。白い物は此処にもう無いと思ったというの、雪見気分、地面に落ちた物が混じって生温く立ち上がる。これは温かくて、暖を取るのに丁度良い。底が地面に張り付く靴を軽く剥がし、塊を蹴る。
今度の仕事は当たり、自分のくじ運の良さに惚れ惚れしながら、混ざり合う色から立ち上る白に一人で酔って、酔いが回って、何も解らなくなるまで酔って、それはシャツとズボンをまた一枚潰した。


ちらり、ちらり、窓の外を白い物がゆっくり、ゆっくりと地面に向って浮いては落ち、音もなく吸い込まれては消える。窓の外に広大に敷き詰められ、広がる石畳の床は、温かい湯がその下を通っているだけあってほんのこの程度の粉雪では積りはしない。
顔全てに包帯を巻いたそれは、瞳を窓の外に映してこそいるが、映るだけの白は何の感情も齎さず、ただ興味なさげで無機質な視線だけが窓の外の闇に吸い込まれる。一際大きな白が落ちる、この雪は積るだろう、彼らは興味一つ向けようとしないが。
絢爛豪華な部屋は常に適温が保たれ、醸し出す雰囲気の所為で生温くも感じられる空間では、外で何が起ころうが大した問題では無い。産まれた時から外に出た事の無い人間が、どうして外で起こっていることに興味を持とうか。材質を聞けば座る事を後悔することになる安楽椅子に座りながら、包帯にまぎれた頬を煩わしく思ったそれは、ただ目に物を映す作業を止めた。
爛れた肌に新しい包帯を巻かれたのはつい先刻、普段包帯を巻く役を担っていた家人は出払っていて代わりがやって来たのだが、代わりがすることを半ば面白がって渋っていた所を強引に巻かれ、簡単に外れないようにきつく結び付けられた。同室に足を縮こまらせて座るもう一人、あれも同じ様に布をきつく巻かれたのだろうか。
窓際に座るそれと違って、むしり尽くされた絨毯の上から敷かれた目に痛い色の敷物に座ったそれは、しきりに顔をガリガリと掻く。もう一人も掻きたかっただろう、腕があれば。
ぴたり、指が止まったかと思うと、うずくまるそれがぼそぼそ何かを呟く。気違いの妄言、誰もがそう受け取るような呟きだが、もう一人はその意味不明な言葉の意味を知っている。これは神を冒涜する為の歌だ。小さな電子音が耳元に響き、部屋に浮く銀の電子時計が日を跨いだ事を告げて、無い腕を使ってアラームを止める。止まった。
聖人の誕生日を祝う日、暖かい部屋で愛する人間と共に祝福に囲まれ、美味い物を食べて幸福を謳歌する日。この椅子と対になった机の上、一切れだけ切られたケーキは熱によってクリームを溶かされて、ドロドロの白い物がぐにゃり、と形を失って垂れている。
囁き声に似た呟き。こんな日にこんな歌を、ましてや彼らが歌っているのを知られたなら、咎められる程度では済まないだろう。無粋な電子音の中でも歌は終わらず、遮る何者かもこの部屋には存在しない。
ぼんやり安楽椅子の背凭れに身を寄せながら、全てから興味が失せた様な様子のそれは目を瞑って、瞼の裏の惰眠を貪ろうとする。歌は止まない。
きりきり、からから、きいきい、もう一人が動いたような気がする。歌の最後の一文、それだけ思い出しはしたが、それすらも彼には興味を持つ対象にすら出来ない。口の端が裂ける、裂けた部分から、風だけがひゅっ、と吹いた。


普段着の豪奢なドレスを脱いで、真っ赤なネグリジェに着替えると、少女一人で寝るにはあまりにも広すぎるベッドに潜る。日を跨いでしまった時計、天真爛漫な少女の顔に似つかわしくない横顔が、細い溜息を吐いた。
枕代わりの熊の縫い包みを抱き寄せる、ぽろぽろ持ったそれの重さが軽く、指先に何かが当たったのに気が付いて一瞬。小さな手に握られていたのは小さなボタン。熊の体は真っ二つに裂けて、中からは綿の代わりだったものがこぼれ落ちる。破れた布と綿に用は無い、行儀悪くベッドの外へ蹴り出して、改めて枕を手に取った。
ふわふわの感触をした睡魔は優しく撫でてくれて、唐突に、ベッドサイドに置いてあったナイフが踊った。ざくり、突き刺さった白くなめらかな表面が裂けて、羽毛が舞い飛ぶ。もう一度、二度、自ら手を下し、切り裂いた傷から飛び出た羽が視界を埋める。
此処は温かく、守られている。なんでこんな温かなものを布の中に押し込めていたんだろう。白い傷痕は少女の足元にも這いずり、優しいまどろみに似た白は傷口を広げるごとに羽毛の波飛沫を立てて広がり、大きく円を描く様に飛び上がってその中に突っ伏した。
何もかも、明日の目覚めさえも忘れて。サンタクロースは自分の所には来ない、去年も、来年も、絶対に来てくれない。手先に当たったもう形を止めない兎を手に取ると、力の限りそれを引き裂いて、何時もの言葉を言おうと口の端を上げようとした。もう、眠ってしまおう。
楽しい、口の端を上げる。楽しい、目の端を下げる。楽しい、何度も何度も、何度でも唱えて自分自身を抱き締める。




明けない夜、そんなものは存在しない、が
海深くに朝日は無い。
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