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結婚記念日:とある神と悪魔の祝詞 [日常編]

此方は浅海由梨奈さんのみ、お持ち帰り・転載可能です。


結婚記念日小説
機械神は自由悪魔の夢を見るか?

登場人物:バルベル 唯我独尊の子
(ノマカプです)
(ベル×唯我)
(変質)









これはとある愛の歌、こいし、こいし、と恋うる愛の祝詞
悪魔の髪に宿る恋


機械神は自由悪魔の夢を見るか?


時が巡ってぐるりと回り、去年違う花咲く夜、幸福と祝福を分かち合う宴の遠く、その場所だけはまるで時が捻じ曲がったかのように滞るぬばたまと暁の中間にあり、まどろみよりもしたたかに深く清らかな、冷えた静寂を浮ぶ。弦が歪み、楽も歪んだ空間から漂うのは、じわりと脳の芯を腐らせ弱らせるような染み入る香の匂い、ふと、赤く焼けたそれが火を落とし、次第に香りをくゆらせていた煙はゆるりと消え、遠く宴の夜も終わりを迎えたのだと知らせた。
まるで憂いるように、すぅ、と優美な睫毛に縁取られた冥の底を写し取った眼が閉じられ、形無く仕えていた人影が掻き消える。最早、この絶対の神の懐で、手を振り人払いを命じる為に口を開く必要はない。神の前、分を弁えぬ者は存在すら許されず、何より最初から産まれてすらこない、全ては神が為にあるのだから。絶対の存在を中心として広がる、傲慢に張り詰め、怠惰に歪む空気、それ以上の妙なる調べはこの世に無く、神は組んだ足を組み替えて暫し終わりの調べに耳を傾け楽しんだ後、肘掛に突いていた頬杖を外し眠りに就くことにした。
この一室に入ることを許された者は数少ない、神にのみ許された強欲の具現とばかりに贅を尽くし、絢爛とした調度品は独特の色合いの所為もあって暗くあり、また極彩のように目を引き、渦を描き滞る様はこの場が神の寝所であることを物語る。がしゃり、一重、二重、神が身に付けていた装飾品が床に落ち、続けて静かな衣擦れと共に衣服が、最後は此の世の覇者の証たる指輪が転がり落ちた。左手の中指の銀以外には一糸纏わぬ姿。透けるような白い肌は限界まで光量を落とした空間の中、薄く柔らかに自ら輝くようで、完全な造形美を讃えた肉体には一点の穢れもない。
桜貝のような爪が並ぶ裸足の足、金の紐が解かれ、ベッドの天蓋が降り、一所に神の眠りを守るべく闇が訪れる。宴の夜の終わり、正に閉ざされた暗黒に身を預けようと瞼が落ちた時、ゆらり、と動かぬ筈のそれが自由の風に揺らぎ、光が射し込む。黒に浮ぶ銀、仄かに輝く角と蝙蝠の羽、微笑の端で鏃の尾が香りのように揺らぐ。裸身を横たえた神は身を起こすでもなく、おいで、と上掛けを捲りただ僅かに一度手招きをして、やって来た悪魔を迎え入れた。青くすべらかな足が掛かり、天蓋の布が落ちる。また暗黒が戻り、時は神が侭に滞る。
「くくく、異端審問官が当主の寝所へ夜這いとは……随分と度胸があるものだ」
光の届かない暗黒、実はこの悪魔がこの場へやって来ることは神にとっても予定外、今頃は名も無い一族達と共に宴を謳歌し、その身を重ね交わらせている頃だと神は考えていたというのに、悪魔は今こうして舌を出している。面白いとばかりに神は笑い、悪魔の突飛な行動を褒めた。忍び込み、誘い込まれた悪魔はするり、と裸に近い格好から更に申し訳程度の衣服を取り去り、何処か端へと追いやって、寒い、寒い、と羽もそのまま絹のそれに潜り込む。丸い踵がずりずりと白に飲み込まれた。
上掛けが羽の空間の分だけ引かれる。しまえばいいというのに、何度も自分の羽に邪魔されながら掘り進む様子は、まるで春先のもぐらのように間が抜けて愛らしい。深い色の冥い瞳を向けられ、顔をひょっこり出して視線を合わせた悪魔は、真珠の様な牙を見せて無邪気に笑い返す。精に輝く角を見る限り、直前まで祝福をたらふく喰らってきたのだろう、纏め上げられた髪を解く為に髪は指を絡めた。寝所で髪を纏めるのは野暮というもの、そして、いかに神といえど彼女の行動に理由を問うのも、また野暮というもの。
「あらら、何か問題でもあったのかしら? ココは『フウフノシンシツ』じゃないのよーv」
快楽を好む悪魔は痛みを嫌う、髪を引かれる痛みも同じく、髪を結ぶそれは緩く簡単に取れる。癖のある長い髪がふわりと解けて、神が持ち上げていた後ろ髪を下ろすと、ぱさぱさ軽い音を立てて白に紫が散った。開放された髪を気持ち良さそうにして、ううん、と奔放に伸ばされた腕、その左手の中指には神と同じ銀色のエンゲージリングがある。折角の妻が気紛れを起こしたのだ、無視をしては夫の名折れ、まだ眠りからは程遠く神は上体を起こし、近くに並べられていた枕を幾つか纏め、楽なように自分の背に置く。
気高き神の最も近く存在することが許されること。あらゆる動作を知ることが出来ること。触れることが許されること。全てはこの悪魔にだけ許された妻の特権。動いたことによって絹が胸から落ち、大きいものではないが形の良く柔らかそうな胸が露になったのに対し、悪魔を目を輝かせると、勢い良く両手を突いて体を起こした。その勢いで更に絹が捲れ、何もかもが露にしながら悪魔は神に圧し掛かり、子を宿した腹部に負担を掛けない為に下半身を膝に乗せる形にし、その胸に遠慮の欠片も無く顔を埋める。愛しむようつつまれる感覚に悪魔は喜ぶ。これもまた、妻にのみ許された素晴らしき特権か。
「うー…おっぱーい、やーらかーい……v」
あふれる心地良さと安らぎ、胸の谷間に唇を寄せて、皮一枚と薄い肉の直ぐ下にある心臓に向って呟くと、悪魔の頭に慈愛に満ちた手を当てられた。鑢で丸く形を整えられた爪は砂糖菓子のような指に良く似合い長く、爪を立てないよう回った手指が頬を撫で、顎を辿って這う。くすぐったい、もどかしい感覚に、悪魔はくぅ、と鼻を鳴らす。上を向こうとした悪魔の喉を、今だ、とばかりに神は捕らえ、近しいけものをあやすかのように擽る。薄く涼しげな唇を半円形に変え、悪魔を愛でる神は酷く邪悪に、邪悪に笑った。
上掛けの下で小さな山脈が出来、にょろ、にょろ、と蛇に変化し動いたかと思うと、それは鏃の頭を浮び上がらせて大人しくなる。ぴすぴす、と目が合って不思議に鳴く悪魔は、青い唇を半月形に変えてまた胸に顔を突撃させた。辿る指を止めた神は、今度は悪魔の後ろ髪をあまりにも人間臭い動作でむんずと鷲掴みにし、指を通して梳く。青くしなやかな腕が細い腰に周り、あっという間にぎゅう、と力が篭り外れなくなる。薄皮の上を唇が、その下の舌が、動きにあわせてゆらゆらけものの尾のように動く髪。
伸ばすとどうしても胴体から上掛けを振り落としてしまう羽が、またぐいぐいと動き、絹を落とし、青い指が元に戻そうとして、白い指とそれが重なった。もしも、この自由の風を纏う悪魔が猫ならば、きっと同じ様に自由の風を纏う毛足が長く尾の太い猫だろう、そう、掴んだ細く量の多い髪を尾に見立て、胸に吹きかけられる息の感触を味わう神は手指で遊ぶ。愛しい悪魔が猫ならば、毎日膝の上に乗せ、ブラシで丁寧に美しい毛並みの手入れをするのだろう。青い舌が無防備に晒された箇所にやんわりと歯を立て、きゅ、と吸う。
「ねぇ、あたし、あんたのこと大好きよ」
心の芯を熔かす悪魔の愛の言葉。けものの毛並みに沿わせるように撫で、そして逆毛を立て、また戻し。胸に抱き、抱かれながら、羽をまた動かし落ちた絹も気にせず体温で温まった暗黒の中、好き、とまた呟いた悪魔の睫毛が擽るように下がる。掴み、尾先から尻尾の付け根まで行う、また付け根から尾先まで同じように繰り返す。青い唇はまた、好き、の形に動き、ささめく、何度も、何度も、何度でも。愛されし悪魔が宴の夜、同等の数の愛を語られたのと同じ様、悪魔は肉に押された拙い動きで愛を囁く。
けもののつがいがする毛繕いのような動きを取っていた指を止めた神は、形の良い眉をぴくりと動かし、弄繰り回していた束を手中で解き、撫でる。けものの動きではなく、人が人を睦む為の触れ合い。腕全体を使って、旋毛から羽に分かたれる背に向って真っ直ぐに梳き、撫で付け、毛先を整える。神の形作る、人の動き。妻にだけ与えられた特権。弱点とも性感帯とも成り得る箇所をやわらかに梳かれ、安堵を覚えた悪魔は、言いようの無い不思議な心地に包まれ、それを味わい幸福に浸る。髪の中に手の重さ、角に当たる爪先の硬さ、青い唇と青い舌が愛を囁く。
「俺様に千の言葉は必要無い、一つで事足りる。九百九十九の余計は一族共にでもくれてやるがいい」
甘く睦み合う愛の言葉を拒絶する、聞こえはあまりにも辛辣で、心を省みないそれに、真実を知る悪魔は大欠伸を返した。深き愛の言葉を掛けたのは他の者、ならその他の者にこそ返すのが礼儀、ただ愛を享受するだけではない偉大な神の慈悲。慈愛の手を受けながら、舌遊びも歯遊びも止めた悪魔はそのままうとうとと眠りの世界へ誘われる最中、肉体を除いて精神は完全に男性である筈の神の愛に、遥か本能の底にのみ残るだけの母胎の記憶、優しく手を差し伸べられ、尾をくるり、と体の腹側に丸め込んで羽の力が抜けてくる。
もう眠りの縁に立つ悪魔の毛先を纏め、手に乗せると、長い間の神が与えた髪を梳かす流れによって、端から端から形を水粒のようにこぼれ落ちてゆく。円を描くように、取り巻くものと同じ渦を描くように、指に絡め軽く結えば、結い上げる傍から力無く崩れ落ちて形を失う。眠ってしまったか、完全に畳むことを忘れて投げ出された羽と抱きついたままの悪魔を、神は髪から指を抜き慈愛を宿した指で頬撫で、唇の動きに眉を顰めた。黒に浮ぶ銀、段になって流れ行く髪、顔を上げた悪魔は神の唇をなぞり、念を押す言葉を塞いだ上で、一度しか言わない、と悪魔は念を押す。
「あたし、あんたのこと愛してるわ」
神は唇の戒めを振り払う。
「俺は、お前の全てに恋をしている」
冷たい膝で立ち、神の体を跨ぐようにした悪魔は、たった一つだけだと言われ選んだ言葉を転がす神の体をそっと抱き、悪魔がそうされたように胸に抱きとめ、そのまま包み込む。さらさら流れる銀を隠し、埋められぬ九百九十九を埋めた上で超えて見せるように、自分が与えられた暖かなそれを愛し合うように与え合えるように。羽毛の入った枕よりもふわふわの胸、人間よりも少し体温の低い体は、今は体同士を触れ合わせた分だけ温かい。悪魔の指がゆっくり、ゆっくりと、何度か引っ張ってしまいながらも神のそれを梳き始めた。
慣れない手付きに悪戯に焦れたのだろうか、顔を上げた神と顔を合わせ、銀と紫が交わる。間も空けずに告げられる神の恋、乞うようにそっと回された腕は青い肌の腰を抱き、異種を曝く色もまたこの暗黒の中ではただ煩わしいのみ。たった一つだけを許し、自分自身もまたたった一つを許した神は、神の懐の中で愛をこいし、こいし、と乞うた。慈しむ時は与えられるだけではなかったか、慈しみ、愛する内に。神を撫でる指が止まり、回された腕は答えるようにそっと神を抱く場所を愛しむ為の場所から、睦み合う為の場所へ変え、横に倒れ、羽が愛しむ神をくるんで抱いた。深き愛、偉大なる愛、神の愛、だが、神が他の愛を望むも、また愛。
こうした体勢になってしまえば、まるで母親が我が子に寝物語を聞かせるようだと、神は少し上から神を守る悪魔の皮一枚、肉一枚に吹きかけた。寝物語の代わりに子守唄の一つでも歌おうか、遂にくすぐったさに悪魔が笑い、尾が立ち揺らぐ。この調子では神も悪魔も眠ることは当分先かもしれないが、どちらも、どちらでも良い。どちらでも、好い。けもののように愛し合い、ひとのように恋し合い、その何れでもないものとして好き合う。何れの姿を持ったとして、何れの形もこうして慈しみあう、それこそが神と悪魔の真理。

なんと好ましいことか、花咲く夜の色をした羽に夜明けは無い。

朝が呼ぼうと
昼が鳴こうと

宴の夜に終わりは無い。

それはとある恋の歌、いとし、いとし、と愛しむ恋の祝詞
機神の瞳に宿る愛
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