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ショウリノタメニハイロイロトドリョクガヒツヨウナノデスヨ。 [日常編]

此方は浅海由梨奈さんのみ、お持ち帰り・転載可能です。



嘘吐き+嘘吐き=

登場人物:メルヒオル 黄泉坂の子
(妊娠話)
(パパがきもちよさそーです)







嘘吐き+嘘吐き=


白くて、むちむちとしていて、つきたての餅を畳んだように張りがあって、なめらかすべすべな、そんな感触にメルヒオルは自分の頬を埋めた。先のコケシの付いたもの、それも赤くて首の所がもげたそれでなければ、この至福を味わうことは出来ない。良い道具に、良い膝枕、この奇跡のような巡り合せに感謝しながら、耳に与えられる至福にほう、と感嘆の息を漏らす。
この至福をメルヒオルが獲得するまでには数多の苦労があった。掃除を済ませ、洗濯をし、最後の最後まで、大人だけのお遊びに混ぜて、そう食い下がるコリーを外へと放り出し。現在のこの、嫁の膝枕で耳掃除、を獲得した。子供がすずなる空間で耳掻きをしようなど、そんな自分から耳掻き耳から刺して脳味噌コネコネしてください、というようなもの。事故は何時起きるか解らない。
一時引き抜かれ、その先の耳垢を拭き、竹で出来たそれに消毒液で湿り気を持たせる。そうしている内、またメルヒオルは太腿を味わおうと頭を動かす。これだ、この程好いむちむち、最近の女は骨と皮になるまで痩せたがる、もう馬鹿としか、確かにくびれはソソるがそこまでいってしまえば枯れ木の洞にナニを突っ込んで腰を振るのと同じ、どうせ食事をするなら美味しい物を食べたい。
綿棒じゃないのだから、と言われそうな程慎重な動き、入り口付近の凹凸を解しながら細かいものを取り、消毒液が染みてふやけた皮膚から削ぐようにして塊を外す。時折薄皮が引っ張られる微かな刺激も良い、ことが進むごとにそれも良くなってくる。また引き抜かれた耳掻きに溜息を吐く。彼は面白そうにくぐもった笑い声を上げながら、大きい耳垢が取れた、となんともいえない喜びに浸る。
「メルったら、やっぱりコレしてる時はごっきげ~ん♪」
ごちゃごちゃ言わずに続けろ、とメルヒオルは耳垢を拭き取った後止まったままになっている彼の手を、気だるげにぺしぺし叩く。まだ笑いの余韻を残す彼は、はいはい、とまた手を動かし始め、さっきよりも深い位置に入った耳掻きに僅かながら痛みを覚え、脆い内側に続く箇所への痛みに体が強張った。だがそれも良い。それが好い。耳たぶの後ろを引っ張られて、湿って柔らかな外耳道が冷える。
光を取り入れ、耳垢が適当に無くなったのを確認すると、また彼は新しく掃除を始めた箇所を優しく掻き、解す。全部掻き出してしまえば良いとメルヒオルは思っているが、曰く、耳垢には酸性で殺菌作用がある為、取りすぎると逆に外耳道炎になってしまうのだとか。事実、彼に二週に一度の耳掃除を頼むようになってから、メルヒオルは耳内の痒み等を覚えた事は不思議なことに一度も無かった。
「お前、巧いよな……ホント」
「まぁね、昔はこれで小銭を稼いだもんだよ」
必要以上に力を篭めて擦り上げないよう、薬指がそっと頬に当てられる。多少強めに固まりを引きずり出されて、脊柱がひも状になってずるずる引きずり出されたような快感を覚えた。メルヒオルの耳はもう慣れて解れたのか、中をごそごそ弄りまわされる音が響いても、芯が震えることはなくなって、いっそ全てに快感を感じると言っても過言ではないだろう。彼は、耳掃除が滅茶苦茶巧い。確かにこの腕なら本当に金が取れるだろう。
普段不敵な態度の多いメルヒオルにしては弱々しい、迷走神経をダイレクトに刺激されて深い安らぎにふやけた声は、彼だけに許された特権。そして、取るべき耳垢があるのは耳の中1cm付近のみ、と彼が深追いしないことによるもどかしさ、という名の心地良さに拍車を掛ける。かさぶた状の物を取り、砕けて粉になったものを固めて取り、また引き抜いて別のものに持ち替え、今度は羽毛で掃う。
「昔は色々なことをやったっけ、ホント、やりたくないこともさ…………政治家の爺さん相手に猫なで声で甘えて、跨ったり……サ」
はぁ、と押し当てられた瞬間、メルヒオルはまた溜息を吐く。羽毛のものは先に縦線の入ったコレが一番気持ち良い、これは本体の耳掻きが今一だが、この羽毛部分だけは絶品だ。6の字を書いてくるりと掃うそれは直接的な掃除というより、一種の休憩的なものに過ぎないが、本来なら触ってはいけない敏感な場所へ硬い刺激を与えられた後、ふわふわのそれで撫でられる悦びは、最早快感というより快楽に近い。
最後に耳の後ろを。羽を持ち替えて今度は綿棒、ジャムの蓋という妙に貧乏臭いそれに出されたベビーオイルを染み込ませ、今度は掃除ではなく汚れを付き難くする為の、撫で上げる動きを始める。染み込ませる量を多くしてはいけない、下手をすればすべりが良くなった勢いで弄られ弱った耳に傷を付け、更には中耳炎にしてしまう。くるくる回しながら、全体へ満遍無く少な目に塗り、それをゆっくりと伸ばしながら磨く。
「強姦されたこともあったよ、ちょーっとしくじって数人掛かりでリンチ喰らっちって……手足折られるて、踏みつけられながらさー…兎に角痛いし苦しいし、アレは二度とゴメンだナ」
言葉の端に自嘲のような感情が滲み、息を詰めた笑い声が降る。動いてぬるぬるとした丸いものに耳内を嬲られる感触に、青い手の筋がぴく、と生理反応を起こす。生理だけではない、腕が伸び、彼の動きを止めさせるべく無言で背を軽く叩く。察して綿棒を引き抜き、ついでに新しいものに取り替える最中メルヒオルは、あ゛ー、と声を出すような大欠伸をした。膝の上、疲れた顎ががくん、と骨と骨を軋ませる感触がして、喉仏が隆起して飲み込み忘れて口内に溜まった唾液を飲み下す。
また新しいそれを差込み奥から手前へ、通りの良くなった奥を終えて、また凹凸に帰って来た綿棒の先は、今度はその細かな部分を揉むようにして擦る。勿論、細心の注意を払って。その為に彼は笑う最中手を動かさない。目を瞑って快楽を享受していたメルヒオルは、言葉を鬱陶しいと振り払うよう、半端に緩まった瞼を二、三度瞬かせてまた閉じ、今度こそ勝手に緩まないように強く力を込める。
「よくそんなポンポン嘘が出るもんだな」
「あらら、なんで解っちゃったの」
自信のある嘘がいとも容易く、それも最初から相手にもされず看破され、頭の上で彼は心底驚いた顔をした。強く瞑ったからか、眦から生理的な涙が零れ、薄い睫毛を濡らしながら青く潰れた頬を伝い、剥き出しになった彼の太腿に落ちて楕円を作る。震わせながら軟骨の隙間を動き、またくるくる回しながら広げ、しっとりと子供のそれのように柔らかくなった耳朶の縁を撫で、最後に裏を拭き取り、彼は綿棒を抜くとぴかぴかになった耳に息を吹きかけ、終わりを伝えた。
「本当のことならお前は死んでも言わないだろ」
次はもう片方。太腿にあった楕円が筋に変わり、落ちる。磨かれた耳はすっきりと通り、メルヒオルには周りの物の音量が三は大きく届く。つくづく惚れ惚れする腕前だ。遠くで誰かが追いかけっこをするのが聞こえる、あれは、アイゴールとスカーレット、エカルラート姉妹だろう。それにしては足音が多い、この妙に忍び足なのはハルファとトムか。きっとあの三人もいる。
「何をそんなに言い渋ってるんだ、言え」
大声で、待て、と叫ぶフォルカーの声。そして立ち止まって、待たない、と叫ぶドルテと一目散に逃げるアレはテオか。がちゃがちゃけたたましい音を立ててドアノブが回される、生憎この部屋は全てを始める前にメルヒオル自ら人が来ない様に鍵を掛けたので、誰も入っては来れない。きゃあー、と楽しそうなドルテの叫び声が届く。逃げ場を失って捕まったらしい、立ち止まるからだ。
ぼんやり数テンポ遅れ、耳弄りが終わって余韻に動くのがかったるいメルヒオルは、妙にじじむさい掛け声を上げながら共に体を反転させ、彼の腹側に顔を向けた。息にあわせて形の良い臍が動く。悪戯に舌を伸ばして薄い腹筋の線を辿ると、白い息が乱れて、くすぐったそうに彼は笑う。メルヒオルの癖のある髪を撫でて窘めると、綿棒から耳掻きへ持ち替え、消毒液で先を丁寧に拭き磨く。
「自分さ……妊娠、したんだ……多分、あんたの子……」
メルヒオルの目と鼻の先で小さな小さな、微かな精が、ふわり、と動いたのが感じて取れた。まだ胎動というより、命そのものが動いている、という風なのだろうか。母の感情を精を感じて。光に慣らしつつ目を明けると、より確かに精を点滅させ、母の命を分けてもらいながら、このいのち達は生きている。大きいのが三つ、小さいのが四つ、柔らかな揺りかごに眠る、メルヒオルが植え付けた小さないのち。ぺしぺし、また背を叩いて腕を止めるよう言われて、彼は不思議に思いながら耳掻きを置く。
次の瞬間、腹に腕を回されて下腹に唇を押し当てられる。熱い息と冷たい肌、腹の子を思って禁欲していた彼はその感触に震えて、顔を左右に振って妄想を散らす。してやったり、とばかりにメルヒオルはまた舌を這わせ、彼の肩が跳ねる。本当は驚かしてやるつもりが、自分が驚く側になってしまった彼は、少し膨れっ面になりながら青い髪をくしゃり、と掴んで、うぅ、と唸った。
「な、なんで疑わないー…」
「バーカ、俺は嘘吐きの旦那だぞ」
あまり強く締め付けすぎては子も苦しいだろう、そう思ってメルヒオルは腕を緩め、元の位置に戻す。くしゃくしゃ、と髪を乱されてもとりあえず『勝った』メルヒオルには痛くも痒くもない。顔を半分だけ起こし、これに懲りたら俺をからかおうだなんて考えないことだ、と意地悪な表情を浮かべ、嘘吐きな彼の正直で悔しげな表情を楽しむ。湿った臍に息を吹きかけると、憎々しげな目が一瞬精を滲ませた。
嘘と本当のことを見分けるなんて容易い、と口で言い、心の中で舌を出し、メルヒオルはあれから一週間欠かさず感覚を辿り、いのちが宿ったか如何かを探り続けた彼の腹部にもう一度キスをして、ぺしぺし、とまた背を叩いて耳掻きを強請る。負けた嘘吐きと努力? で勝った嘘吐きの交わりあったいのち達がまた、ゆるり、と蝋燭の火を思わせる動きで嘘のように正直に揺らいだ。
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