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ぼくらの女の子倶楽部/誰にでも思い違い位はある [日常編]

此方は浅海由梨奈さんのみ、お持ち帰り・転載可能です。



ごめんなさい以外で
異文化コミュニケ~ション

登場人物:イェニー アンソニー
モブ:ザイフラ 女の子倶楽部のみなさん
(女の子倶楽部登場)
(廃棄くん、ぎゅー)







ごめんなさい以外で
異文化コミュニケ~ション


うず高く詰まれた書物の山、掃除しても掃除しても拭えない黴臭さ、防虫剤等のツンとした刺激臭、入り浸る二人の子供の密やかな愛の言葉、何処からか聞こえる人外の息遣い。今この部屋を満たすのは、絵物語から切り取られたような光景と高すぎる天井、非日常の日常……の、筈だったが、今日は少しばかり様子がおかしい、孤独で心地良い静寂を破る無粋な何者かこそいないが、明らかに何かが。具体的には部屋の隅に亀の様に手足を縮めて体を畳むそれと、それの周りを取り囲んで時折手を出す何者かが、女装男子というそれだけでも非日常的過ぎる何者かが五人程、音も無くじっと佇んでいることだろう。
亀の中から歪んだ呻き声が漏れて、黒いベビードールを纏ったこの中で最年少のルイスは一瞬体を引き、負けるものかとばかりに見えない何かに挑んで戻る。少しだけ緩んで見えた足と腹の隙間、コルセットの付いたドレスと髪に編み込むティアラを付けたランナーボルトが手を伸ばし、こじ開けようと力を込めるが、貝か何かのようにそこから息を漏らして体を閉じてしまう。薄化粧の施された顔で彼はチッ、と行儀の悪い舌打ちをして、何処かが開かないものかとぐりぐりぐり、と頭の格納されている付近を弄りまわす。また呻き声、それは最初こそ突然現れた彼らに威嚇の声を上げたりしていたが、追い払っても追い払ってもやって来る彼らに対し、まさか武力行使をする訳にも行かず、結局は現在の状態に収まってしまった。
本棚の脇に人影が、白い少女と黒い少年が顔を出して、この部屋の主の無事とも大変とも取れる安否を確認している。チュチュを翻して振り返ったエディは、二人に対して何も危ないことは無いとにこやかに笑って手を振るが、スカートを履いた男性に問題は無いと言われても問題しかない。また舌打ちをしたランナーボルト、開けろ、と口に出してまたこじ開けようとするが、おそらく特別なやりかたで絶対に解けない体勢というものなのだろう、半淫魔の力でもとても開けられず、それ以上掴むと怪我をさせてしまう、そう、ハーゲンがランナーボルトの腰周りを馬にするよう叩いて窘めた。白と黒はそろそろ人を呼ぶべきかと思ったが、その前に人は来た、変なもの好きで本は絵本以外見ないのに図書室に入り浸る、イェニーだ。
「ちょっとちょっとちょっとー、嫌がってるじゃない、いじめちゃ駄目よー!」
かわいい女装男子に取り囲まれる変なの、これだけなら別にイェニーの中ではあるある、で済まされるかもしれないが、肝心なのは変なのが助けを求めているよう見えること。ぎゅう、と息を吸う好き間も無く縮こまった変なのが、イェニーの気配を感じて呻き声を上げる。ルイスはまたたじろいたが、イェニーはそれが確かに「助けて」と言っているのだと聞こえて、一度畳もうとした羽をもう一度広げる。当初の目的、図書室の掃除、を忠実に守っていたナベリウスは、低空飛行て近寄ってくるイェニーに驚いて手に持った本を落としかけ、よろめいた。古風なデザインのメイド服、ロングスカートとヘッドドレスに付いたリボンが揺れる。取り落としてしまった分厚い本、ザイーが空中から拾う。
襟足をぐい、と引かれてまた強行しようとしていたランナーボルトの足が宙に浮く。小悪魔系ファッション、だなんて見出しにありそうな生足魅惑のアンソニー、虐め、という意図していなかった単語を耳に挟み、足元の限界まで縮こまったそれを見る。嫌がっているのか、これは。エディがアンソニーの視線を無駄多く追い、同じ物を見て正直に、嫌がっているの? と、心の声を代弁した。ええそうよ、という意味を込めて、ふーん、とちょっと凄んで息を吹くイェニーは、わざと掴んだ襟足をぶらぶら揺らせ、ハーゲンは苦しそうなランナーボルトの足の下に回り、人間椅子の体制になって自分から踏まれる。手が放され、セーラー服の上にドレスが尻餅をつく。
「それは失礼しました、……その、彼の声は聞き取り難くて」
ぷりぷり叱られ、困った顔をしたアンソニーは、デニムのミニスカートの端を少し持って謝る。隙間からまた声が漏れる、イェニーには自分の名前を呼んだ風に聞こえて、エディにはヒィィ、と意味にならないそれに聞こえた。事態がマシになったことを察して、少し明いた隙間からドロリと濁った色の瞳が覗く、視線を合わせてエディは何時の間にか胸の前で小動物のようなポーズしていた腕を解き、膝を付いてその場に座り込む。歪にねじくれた手足、色々と透けた皮膚、おどろおどろしい外見のそれは怯えているとでもいうのか、手を伸ばして触ろうとすると隙間がまたヒィィ、と鳴る。どろどろに濁った瞳は以前変わらずじっと此方を見て、時折妙な声を出した。
飛んでいた脚をやっと地に付け、エディの隣にしゃがみこんだイェニーはそっとそれの頭を、何かそれそのものが生き物のような髪を宥める為にぐいぐい触る。僅かに解けて、何処から出たのか解らない位置から指の不揃いな腕がそろそろ現れ、イェニーの太腿にぽたりと置かれた。根が真面目なルイスは最初に此処に遅れてやってきた時にはもう既にこの状態になっていた為、そういう生き物なのだろう、程度の認識しか持たずに突付き回していたことを反省しているらしく、しゅん、と項垂れて小さく謝りの言葉を入れる。わざとではなかった、と。尻に敷かれて何故か嬉しそうだったハーゲンは、明らかにやりすぎていたランナーボルトの脚を引っ張り、何も言わずに舌打ちで注意をする。ヒィィ、また鳴き声。
「ならよーし、わざとじゃないなら良いわよー…ほら、この子も許すーって言ってるし」
「……すいません、実は……言葉だけじゃなくて彼の表情も……解らなくて」
太腿に置かれた手は太い血管が浮き出しており、時折びく、と跳ねる様に震えて、エディは思い切って手の、人差し指を伸ばして青く走る血管に触る。生々しい色をしたそれは、想像の時よりもぬめぬめなどしておらず、人間と同じ体温を持っていて、何故かエディは申し訳無い気分になった。部屋の真ん中に居た変なのが部屋の隅に行って丸くなって動かなくなった、如何表情を見ても表情があるとは思えなかったので、そういうものなのだろうと思いながらどうにかして顔を見てやろう、そう思ってランナーボルトはそれをこじ開けようとしていた。紫のフリルが付いたドレス、ハーゲンから立ち上がって裾を持って座り、試しにエディに習って血管を触る。血が通っていた。
「ほら、触りたい時は優しくしてあげてネv」
もし、最初からそれが自分達の行動に対して良い感情を持っていなかったのだとしたら、散々万力篭めて腕を引っ張ったり、頬を抓ったりもして、それは苛めに近しいかもしれない。ふと、イェニーは手を握るのを止めて指を立てると、頭を上げたハーゲンのぐぬぬ、とした眉間の皺に指を置き、ぐりぐり優しく解す。仲直りしたなら良いのよ、と笑う顔は温かく、それを見詰めるどろどろの瞳が光った。ランナーボルトは太くてごわごわしていそうな髪を触る、一瞬またヒィィ、と声が出たが、今度は大人しく触られて、確かもそれは太かったが見かけ程脂ぎってはいなかった。
こぞってそれに人が集る様子を遠巻きに見ながら、ナベリウスは本の片付けを続け、トラブルにならなかったことにほっと息を吐く。仮にも、世の中のアレすぎる女子達ではありえない漢達の理想がパンパンな夢の女子を我が身で体言してみせようとする『女の子倶楽部』、知らず知らずの内に苛めに加担だなんて理想の女の子からは遠く、更には謝ることも出来なかったらそれは最早女の子倶楽部失格どころか人間失格も良い所。一人様子を見に行き、丁度事態が一段落したことをフラーに知らせようと戻るザイー、実に良い尻だと思ってナベリウスはそっと勧誘してみるが、爽やかな笑顔でやんわり指を三本立てられてしまった。三万円。
「ところで、何でこんなことしてたの?」
「えっ……と、その、彼ってなんというか……非常に奇抜な外見をしていらっしゃるじゃないですか」
精一杯オブラートに包んで言葉。ぎく、とわざとらしい程に解りやすい驚き方をしながら、女の子倶楽部の部長は胸の前で指同士を突付き合わせ、もぞもぞ語り出す。初めての顔合わせの際、一塊になって自己紹介をしていた最中に部屋の隅に変な塊があることに気が付き、興味を持って近付いてみたところそれは生き物で、しかも一緒に暮らしてゆくらしい家人さんで、そんな事も知らなかった自分達はルイスは悲鳴を上げて飛び上がり、ナベリウスは涙目に、ランナーボルトは警戒の唸り声を上げ、ハーゲンは逃走しようと羽を出し、エディに至ってはそれが現実ではないと現実逃避を始めてしまったのだという。他と同じ様にしゃがみ込み、アンソニーはそれの手、らしきものを手に取る。
力無く、乗せられるがままの指に張られているのは人間の皮膚。イェニーはそんなアンソニーの頭を撫でる、汗の感触、何か非常に緊張、いや、非常に恥ずかしいことを言おうとしているかのようなアンソニーはは、撫でられながら目を細める。手に取った手を握る、少し汗の感触があって、この何者かは自分と同じで何か、言葉に怯えているのかもしれないとアンソニーはぼんやりと感じた。言葉に詰まる彼の髪から握る手に手を重ね、イェニーは「頑張って」と、微笑む。これはとても大切なことなのだから。絶対に言わなくてはならない言葉なのだから。頑張れ、頑張って、と続いてエールを送る部員達。ふと羞恥から我に帰ったアンソニー、帽子を被っているのは失礼か、と思いついてキャスケットを脱ぐ。
「だから、その、折角一緒に暮らしてる人なのに、何時までも怯えてるのは嫌だなぁって…………だから、急いで見慣れようとおもい、ま、して」
力無く握られるがままの手、もそもそと冬眠から目覚めるカエルのような緩慢さで二本目の腕を出したかと思うと、少し汗ばんでいた手でぎゅう、と握り返す。その手には長すぎる爪が生えていて、もう少し力を入れられればいとも簡単に皮と肉を突き破り、切り裂くことが出来るだろうということに、アンソニーは今更ながら気が付く。大分緩まってきた場所から漏れる、ヒィィ、という声。さっきとは全く質の違うよう感じる、遠く響くような、今度は確かに嬉しそうな声。遠くで彼女が読むにしては薄目な本を開きながらそれを聞くフラーは、慣れたそれに安心の溜息を吐く。傍らにあるのは預けられた眼鏡。今度読む本は今読んでいる本の十倍の厚さだろう。

やっぱりね。
そう、ヒィィ、を聞いたイェニーはまたふんわり微笑んだ。
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